本の旅『見捨てられた牛-フクシマより』 | |||||
|
本の旅『見捨てられた牛-フクシマより』
日本CGNTV放送番組より
三重県生まれの日本画家、戸田みどりさんは、長年、水をテーマにした絵を描かれています。震災後の原発事故により、被災地である福島の「水」が汚染されたことをきっかけに、放射能に汚染された牛たちを描き続けています。『見捨てられた牛-フクシマより』は、福島第一原発事故で汚染された草を食べ続けている牛を描いた詩画集です。被曝しながら生き続けている牛たちを通して、原発事故の恐ろしさ、生命の尊さ、子どもたちの未来を考えるメッセージの詰まった本です。
福島の牛を描くことになった経緯 私は、長い間「生ける水」と題して、いのちの水が溢れるというテーマで絵を描いていたのですが、福島の原発事故による災害によって、美しい湧き水が汚染水となり、海を汚染してしまっているという状況を思い、「このまま水を描き続けていいのだろうか」と悶々としていました。ある時、クリスチャン写真家の写真展で、東日本大震災の後、放射能で汚染された被災地の写真を見ました。その時、「被災地に行かなければならない」という思いになり、福島県楢葉町に行きました。その翌年に殺傷されるはずの牛たちを生かしている浪江町の牧場に行きました。そこから被曝した牛を描くようになりました。
生ける水をテーマにしてきた理由 小さい頃から父の仕事の都合で20回以上転勤し、日本中を転々とし、新しい土地に行くたびに、つらい思いをしました。でも幼稚園の時に、絵を描いたのを園長先生が褒めてくださり、それで絵描きになりたいと思いました。30歳で信仰を持ち、柿田川の湧き水を見たときに、イエス様の言われた「わたしが与える水を飲む人は、いつまでも決して渇くことがありません」(ヨハ 4:14)と、神殿から出ている水が、足首まででも膝まででもなく、「泳げるほどになり、渡ることのできない川となった」(エゼ 47:1~5)という箇所を思い出しました。聖霊の溢れる水が私を満たしてくださることを知り、その「生ける水」をテーマにしようと思いました。
被曝した牛について 2015年に希望の牧場を訪ねました。そこでは330頭の牛を殺さず、全国から寄付を集めて、過酷な状況の中でも牛たちを生かしています。しかし、牛の糞尿にまみれた道が牧場から小屋に続いています。生まれたばかりの牛たちが冷たい糞尿の上で寝ているんです。それを見て「ごめんね」と一頭一頭に謝りました。牛たちが、そんな状況の中でも元気に生きようしている姿を見て、「私たち人間は、いつも不平不満ばかり言っているのに、牛たちは置かれた状況で精一杯生きている」と思わされました。牛の澄んだ瞳を見ていると、人間がひどいことをしたのに赦してくれているのだと感じ、赦すことを学ばされます。
印象に残った観覧者の感想 被曝して皮膚がただれ、毛がほとんどなくなってしまった牛と出会ったのが2017年です。最初は、凝視できませんでしたが、私が描かなくて、このまま死んでしまったら、放射能の恐ろしさを伝えることができない。「この牛が死ぬ前に描かなければならない」と思わされました。その作品をご覧になった方は涙を流して「こんな事があってはいけないね」と言ってくださいました。一人の牛飼いの方が「牛たちの目を見てください。悲しそうでしょう」と言いました。放射能の内部被曝が進んでいるのか、とても苦しそうに見えました。その牛を見て「これは、今後の私たちの姿なのではないのか」と思ったこともあります。
信仰を持ったきっかけ 結婚して主人の仕事でニューヨークに行き、そこでクリスチャンと出会いました。アメリカで出産した息子が病気になり、あるクリスチャン団体が無料で病院の送り迎えや通訳をしてくれました。その団体のジェーンさんにお金をお渡ししたら「困った時にそのお金を使いなさい」と言ってくださって、「クリスチャンってすごいな」と思ったのが最初の驚きでした。日本に帰国後、病気をして、1ヶ月ほど原因不明の熱が出ました。精神的にも子育てにも疲れて、だれにも相談できずにいたのですが、ジェーンさんが『塩狩峠』という本を送ってくれました。それを読み「なんて平安な世界なんだろう。一体これは何だろう。私も平安がほしい」と思いました。それで、教会に行こうと決意して行くと、その病気も癒やされたのです。心もずいぶん軽くなって、それから洗礼を受けました。
詩画集を通して伝えたいこと 世界中に400以上の原発があり、日本には54基ありますが、そろそろ老朽化が進む時代に入ってきます。これから原発の事故が目に見えて起きてくるのではないかと思います。そのようなことを世界の人々にもっと知ってもらいたいです。安心できる安全なふるさとを子どもたちに残してほしいと、神様が言っておられるように思います。