死んだ者を目覚めさせたみことば

キム・グァンドン　NGOベターワールド代表

私は、1990年２月、ベルギーの首都ブリュッセルにある欧州連合（EU）の本部に参事官として赴任しました。３年間の在任中、経済協力課長、通商機構課長、儀典課長などを歴任し、週末も休みなく働きました。激しい業務とストレス、飲酒によって、心身ともに疲れ果て、かろうじて出勤しているだけの苦しい日々でした。時間を作って運動し、情緒的充電が必要だと考えて文学や教養書を読んだりもしましたが、それでも心の渇きはなくなりませんでした。

立ちなさい、さあ、行こう

時は秋でした。季節のせいか症状は次第に悪化し、いつも心に冷たい風が吹いているような空しさがありました。何によっても、そのような私の心を満たすことはできませんでした。私は、うつ病にでもかかったかのように、何をしても無意味に感じていました。

そんなある日、朝、出勤して本棚を見回していると、だれが入れておいたのか、１冊の聖書が目に留まりました。私は聖書にはどんな内容が書いてあるのだろうと気になりました。それで、比較的簡単だと言われている新約のマタイの福音書から読み始めました。ところが、だれがだれを生み、また生むという系図から始まっていて、私は忍耐しつつ読みました。次はイエスが御霊によって胎に宿ったという、神話のような話が出てきました。さらに続くみことばによって悪霊を追い出し、病人を癒やす場面も、理性と知性を信奉して生きていた私には難解でした。しかし、不思議な力に導かれて聖書を読み続けました。そして、マタイの福音書26章で、衝撃的な箇所に出会います。「立ちなさい。さあ、行こう……」（マタ 26:46）。当時は、このみことばが何を意味するのか、よく分かりませんでしたが、その時の気持ちは今でも忘れることができません。私は軍隊服務中に拳銃の誤射事故を起こしたことがあるのですが、事故が起こった時、鼓膜が裂けるほどの音とともに銃弾が壁に突き刺さり、白いペイントの粉が狭い部屋に広がった時と似ていました。

妻と子どもたちは教会に通っていましたが、私は日曜日にはゴルフを楽しんでいました。若い牧師が開拓した小さな韓国人教会に行くのも、何となく気が進みませんでした。教会は意志が弱い人が行くものだと、ひそかに教会員たちを見下していました。そんな私に主は、「さあ、行こう」と語られました。高慢で頑なな私の代わりに十字架を負い、私のような罪人の代わりに死んでくださるほど愛してくださった主。主のその愛を完全に悟るまで、ずいぶん長い時間がかかりました。しつこい妻に勝てず、仕方なく教会に行って上の空で礼拝したりもしました。「さあ、行こう」という御声を聞いても主の十字架の道に従わず、世の成功と享楽の中で眠っていた私のもとに、主はもう一度来てくださいました。

眠っている人よ、起きよ

1991年3月31日、イースター礼拝の説教の時に、福音が私の心の奥に突き刺さりました。主ご自身が語っておられるようで、パッと目が覚めました。主の道から離れて一人でさまよい、疲れ果てて眠っていた私に、生きて働く力強い主のことばが臨んだのです。「……『眠っている人よ、起きよ。死者の中から起き上がれ。そうすれば、キリストがあなたを照らされる』」（エペ 5:14）。

43歳という年になって、ようやくイエス様を受け入れた私の人生は、深い眠りから覚めたように全く新しいものになりました。私に重くのしかかっていた無力感はなくなり、いのちの主が与えてくださる力によって満たされました。翌年８月に儀典審議官として韓国に帰任してからは、教会で開かれるスモールグループの聖書の学びなどに参加して、信仰の養育訓練を受けました。その後、中国や香港、ブラジルなど、様々な国で勤務する間、主のみことばが私の足のともしび、私の道の光となりました。

35年間の外交官生活を終え、引退した後に与えられた働きは、NGO「ベターワールド」の代表です。2010年12月から西部アフリカの国々など、劣悪な環境にある37ヶ国に井戸や保健所、学校を建てました。農業技術の伝授など、所得増大のための事業を通して、貧困や疾病や自然災害に悩まされている世界中の隣人を助けました。身も心も死んでいたような私を目覚めさせ、愛の御子イエスのご支配の中に移してくださった神様の恵みです。神の国の外交官として地の果てまで行き、苦しんでいる人々の良い隣人としてくださった主に、すべての栄光をささげます。

本文は、『リビングライフ STORY 2021年9月』（Duranno書院）より、抜粋したものです。