「草枕」「石枕」を越えるもの | |||||
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「草枕」「石枕」を越えるもの
大和カルバリーチャペル 牧師 大川従道
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
ご存知、夏目漱石の名作『草枕』の書き始めの文である。『草枕』とは、旅の枕、すなわち仮寝の床のことである。
漱石が言うように、どんなに頑張っても「人の世は住みにくい」。21世紀になったら、人間の英知を傾けて、平和に過ごせる国を作れると夢を持った人は多いが、ふたを開ければとんでもない世の中だ。
旧約聖書の中にも、「草枕」ならぬ「石枕」を味わった人物がいる。兄エサウを逃れて旅をする途中、「石の枕」を体験したヤコブは、まことに神のあわれみにより、孤独の中で夢枕をし、天的世界が開かれた。まさに「ベテル」(神の家)である(創 28:10~19)。
しかし、このような世界も不完全であった。主イエス様の受肉以前には、完璧なものはないのだ。主のご降臨は、何もかも新しくしてしまった。
イエス様はこのように語られた。
「わたしは道であり、真理であり、命である(I am the way, the truth, and the life. -NKJV)」(ヨハ 14:6)。
ギリシャを旅行中、隣に座った青年に、覚えたての聖句をギリシャ語で伝えて感想を聴いたことがある。すると「あなたの言葉は、現在は使われていない。古語であり、死語である」と言われた。言葉は通じても、心には届かずガッカリした。死語ではない、キリストはよみがえって今も生きている、ということを伝えて、伝道したかったが……。
『リビングライフ』の今年のテーマの一つは「真理であるイエス・キリスト」である。草枕の世界はもちろんのこと、石枕の世界でさえも、イエス様を「真理」そのものとしてお受けしないかぎり、天も地も開かれることはない。ヤコブに注がれた恵みとあわれみは、旧約聖書における驚くべき啓示の世界であるが、イエス様という「真理」の介入なしには、別世界と言ってもよいほどの壁がある。
ヨハネの福音書14章6節の「わたしは……真理であり」の「真理」の英語訳には、“the truth”というように定冠詞がついているから、「真理の御霊」(ヨハ 16:13)のご教導が不可欠である。神にある一つのまことの真理だからである。
「けれども真理の御霊が来る時には、あなたがたをあらゆる真理に導いてくれるであろう」(ヨハ 16:13)。御霊は「あらゆる真理」に導いてくださるのである。QTの世界で最も大切なことは、このお方を絶えず認識し、お迎えすることである。
ルター神学の理解を深めるポイントの一つは、「隠れた神」というテーマである。「イスラエルの神、救主よ、まことに、あなたは、ご自分を隠しておられる神である」(イザ 45:15)。啓示の中に真理を隠しておられる神。秘匿性(包み隠すこと)。聖霊様のお働きの極みは、その隠された真理を解いてくださることにあると言ってよい。
私は「聖霊のバプテスマ」を、1978年2月3日に受けた。それまでも、聖書の世界、神学の世界を、最善を尽して学んできたつもりであったが、ご聖霊様をいただいてから、メッセージに全くといってよいほどの変化が与えられた。時々ハズレることもあったり、空振りのメッセージをしてしまうという失敗がないわけでもないが、毎回毎回、「真理の御霊」が、愚かで欠けだらけの私に、秘匿の世界を開いてくださる。
「教会成長は、祈りを通して働かれる聖霊のわざ」である。そのみわざの中心は、「み言葉が開けると光を放って、無学な者に知恵を与えます」(詩 119:130)というみことばに示されているように、聖書のみことばの世界を開いて、知恵を与えてくださることである。「無学な者」とは、学問のない人のことではなく、まるで学んだことのないような人(unlearned people)を示す、と十代の頃、教えられた。
新しい年、「みことば運動」が拡げられ、深められますように、主に期待し、祈りをささげる。あなたもその鍵をにぎっておられる。
* 聖句の引用は「口語訳聖書」によります。
大川従道
1942年生まれ。東京聖書学院卒。青山学院大学神学科卒。深川教会・サンフランシスコ教会の牧会を経て、現在の座間教会・大和カルバリーチャペルで奉職。主任牧師。ICA理事長、トーチ・トリニティ神学大学院にて名誉博士号を受ける。著書に『バカの壁を超えるもの』『生き方下手でも大丈夫』など多数。
本文は、『リビングライフ STORY 2018年3月』 (Duranno書院)より、抜粋したものです。