路上の隣人
日本CGNTVドキュメンタリー番組より
日本三大ドヤ街の一つである横浜市寿町の路上で生活をして4年になるタカヤマさんは、商社やゼネコンで働いていましたが、会社を退職後、再就職先が見つかりませんでした。ある事情から家を出て、手持ちのお金も尽き、行き場がなくなった末に、寿町へたどり着きました。タカヤマさんは横浜スタジアムで野宿しています。いつも寝不足で食事も不規則、健康には良くない生活です。
タカヤマさん 「外で寝ることに抵抗はありましたが、それしか方法がなくなりましてね。それからずっと日雇いの仕事などをしながら生きています。本当に、ちょっとしたずれから、こういうことになってしまったんです。『自分はだれなんだろう』と思い、存在がだんだん薄れていくのを感じます。社会貢献もできないし、働こうと思っても証明書がなければできませんし」
横浜市が設置した寿生活館のすぐ前にある寿公園では、多くの団体が炊き出しを行っています。横浜カナンキリスト教会は、アコーディオンの音色とともに、木曜日と土曜日の週2回、炊き出しを行っています。
佐藤 敏牧師 「ここに来ればご飯食べられますが、説教があります。『早くしろよ』と言われたりもします。『分かった。ちょっと待って』と言う具合に。その後で『聞いてくれてありがとう』と言ってご飯を配ります。それが積み重なって『いつもこの時間に来ると、この集会やっているな』と信頼されていくのではないかと思います。地道な伝道です。『どう? 元気になった?』『たばこ止めれた?』と言葉をかけると、『いや~、まだやってるよ』と返ってきたりします」
カナンキリスト教会で働いているスタッフの多くは、路上生活経験者です。彼らは聖書の登場人物にちなんで「ラザロさん」と呼ばれ、人々に仕えています。
田村 隆さん(スタッフ) 「最初、徐蓮熙先生がぼくのところに来たとき、ぼくは足を引きずって逃げたんです。すると、翌日、湿布薬5枚と飴玉が置いてあって、『よかったらカナン教会に相談に来てください』という徐先生のメモが添えてありました。それで、教会で助けてもらえなかったら死のう、と思って行きました。そしたら、そこに『わたしはよみがえりであり、いのちです。わたしを信じる者は死んでも生きる』と書いてあったんです。死にたいという人間に『死んでも生きる』と言われて、拍子抜けしてしまいました」
徐牧師は、30年前に韓国から宣教師として来日し、神の愛を伝えるためにお弁当の配布を始めました。その後、佐藤牧師も、日本語ができる牧師を探していたカナンキリスト教会で一緒に働くようになりました。教会が始まって5年後のある日、深夜に空き巣が会堂に侵入し、隣の部屋にいたイムさんという人が犯人ともみ合ううちに包丁で刺されて亡くなりました。徐牧師は失意の中、韓国へ帰ろうと思いましたが、佐藤牧師が引き止め、その後、二人は結婚して寿町で働き続ける決心をしました。やがて様々な人々が路上から訪れ、「ラザロさん」として共に働くようになりました。ヤクザだった人、家庭が崩壊した人、会社が倒産して行き場がなくなった人など、彼らの背景は様々です。
カナンキリスト教会の炊き出しの準備をしている人々の中に、タカヤマさんの姿がありました。彼は洗礼を受けていました。
タカヤマさん 「自分で環境を変えないと、先が見えてきません。『ただ生きているだけでいいのか』という思いが膨らんでいって、炊き出しを手伝うようになりました。ようやく人のために何か役に立つことができているんじゃないかなと思います。昔の仲間たちにも、こういうふうに変われるという姿を見せられたらいいですね」
佐藤 敏牧師 「人生とは、神を愛する礼拝と人を愛する伝道、この二つです。どんなに貧乏でひもじくても、イエス・キリストを信じれば救われます。今まで自分中心だった価値観が、人中心の生き方に変わります。イエス・キリストを模範として生きるのがクリスチャンであり、それをアピールしていくのです。死ぬまで礼拝と伝道をやめてはならないと思っています。路上には、自分と同じように愛されるべき人がいるのです」
* 本文は、日本CGNTVのドキュメンタリー番組「路上の隣人」を要約したものです。